いにしえのポルシェ 来る
2012.11.30 Friday
20代の中頃、私はそれまで勤めていた会社を辞め「掃除屋」を東京で開業した。その当時
流行っていたドラマの影響だったかもしれない。サラリーマン生活に倦んでいたのだろう。
若かったその頃は何をしても食っていける自信があり、何のためらいもなかった。
ある日、本郷の菊坂あたりで、夕日を背に浴びて輝くポルシェが止まっているのを見かけた。
小さなボディにあの存在感、あの感動は何だったろう。埃まみれになりながら、いつか儲けて
こんなクルマをガレージに収めたいと闘志を燃やしたものだった。
35年の歳月を経て、ほんの少しの成功と山程の失敗を繰り返しながら、何とはなく、小じんまり
とした今のポジションに居座ってしまった。それが偶然の産物か、「検査付170諭吉」と引き換え
に今になってその「空冷ポルシェ」が我が家の一員となった。
新車の躍動感はもうとうに消え去ってしまったろう。だが当の本人とてそれは同じことだ。
それでも、この年代物にして充分に満足できる加速力を秘めていた。
ある程度、年を経た人ならわかってもらえるだろうか。決して最新のものというのではではなく、
若い頃に夢を見て、求めても得ることが出来なかったものへの憧れを。
ヒトから「何に乗ってます?」と聞かれ、「ふた昔前の空冷ポルシェに乗ってます」と答える
ことに何気ない晴れがましさを覚える。
私は今、小さな夢の国にいる。
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